天井が高い。真っ白い布団に横たわって見上げる天井は、とても、高い。
少し開いた襖から見える世界は夏の匂いに満ちていて、流れ込んでくる風に鼻の奥の方がつんとする。
いのちの季節だ。濃く茂る緑の世界。
青臭い畳の匂いに捲かれて眠る沖田が踏み込むことの叶わなくなった世界。
いつのころからか、咳が止まらなくなった。痛む胸を押さえ込むことにも限界を感じ始めた。
ふとした瞬間に安定を失う大地に踊らされ、崩れ落ちることも珍しくなくなったころ、とうとう、それは、死が己を蝕んでいる証拠であることを認めざるを得なくなり、こうして柔らかな寝床へと縫い付けられるハメになった。
寝るのは好きだった。けれど、寝かされるのは好きではない。
気まぐれに歩き回って、甘いものを食べて、川原に寝そべって、白くて柔らかくて美味しそうな雲が縦横に流れてゆくのを見ることが楽しくて、怒られても怒られてもやめることができなかったのに、何故自分はこんなところでじっとしているのか。
沖田はゆっくりと瞬きをする。木目が走る天井が暗闇に覆い隠される僅かな時間、背で押しつぶした草の青臭さと肌を焼く太陽の光、頬を撫でる風や目を焼く空の青さ、そしてあの雲を思い浮かべる。
スライド写真のように移り変わる景色のなかで雲はいつも白く、気ままにたゆたっていて、それはとても天に近く沖田には羨ましく感じられた。
高いところにいるのは気持ちがいいものだ。
それに比べてこの部屋の、なんと居心地の悪いことか。
時折訪ねてくる隊士たちの哀れみを含んだ目が尚更沖田を苛立たせ、しかしその苛立ちすらも死に行く者の小さな我侭とでも思っているのか、皆甘んじて受け止めてゆく。それがまた、気に入らない。
鬼の副長とまで呼ばれたあの土方ですら、最近では沖田の目をまっすぐに見ようとすらしない。
土方は毎日この部屋を訪れては、調子はどうだ、食いたい物はあるか、と蚊の鳴くような声で呟き、沖田の返事があろうがなかろうが、またくるからと言って去ってゆく。
それは、沖田が寝巻きのまま縁側に座っていた時から、こうして布団に横たわり続けるようになった今まで、ずっと続いている。
いつまでもいつまでも、まるで独り言のように呟くその声は、変わることが無い。
最近では呼吸の音がうるさくてあまりよく聞こえなくなって、けれどいつも同じ台詞だからもう聞かなくてもわかる。




いつもと同じように、昔よりもずっと軽くなった足音とともに土方が部屋に踏み入ってくる。
もはや沖田の一部のように馴染んだこの部屋に入られるということは、なんだか己の内の守るべき領域に無断で踏み込まれるようで、妙な気持ちになる。
このひとにここまで許した覚えはないのに、そう思ってもどうすることもできず、できたとしても恐らくは何もしないであろう自分は、やはりとても、弱っているのだ。
土方はぬるい麦茶と一口大に切られたスイカを携えてやってきた。赤く甘そうな果物は、好きだ。
思えば少し乾燥している口の中に、やんわりとスイカを一切れ押し込まれ、何も言わずに咀嚼した。甘い。
ゆっくりと瞬きをしながら、あの気ままな雲を思い浮かべながら喉の奥に流し込む。
土方は、起きられるか、とそんな沖田に訪ねた。それができないとわかっていながら。
それが彼なりの優しさであると思うと鼻の奥がつんとする。口元がひくりと蠢く、それは、涙を堪えるために必要な動作だ。
胸が痛んだ。そういう病であることはわかっていた。それでも、胸のどこか奥の方、死の影に脅かされない沖田の根本的なところに、土方はいとも簡単に入り込み、触れてゆく、まるでこの部屋に踏み込み穏やかに言葉を紡ぐように。




「スイカ、甘い、ですね」
「高いの買ってきた、美味いだろ」




咽ながら、とてもか細く擦れきった声で呟く沖田に、土方は目を合わせずに応えた。
少しばかり震えた声と肩に、沖田は気付かないフリをする。
ほんとうは言いたいことがたくさんあるんだ。
それを言葉にする術をまだ知らず、だからこそここにとどまっていられる気がする。
すべてが変わらずそこにあれば、ずっと、このまま、




沖田はまた少し瞬きをする。浮かぶ景色の中の雲はどこまでも白くかすんでゆく、