武田の城には赤い武人と、彼に影の如く添う一人の忍がいるらしい。

炎のように煌く目には、月夜のように静かな目で。

花のほころぶような笑顔には、水面を揺らす波紋のような笑顔で応えるそうだ。

二人の姿は離れることなく、一年365日を共に生き、呼吸も二人分、悲しみも喜びも分かち合い、互いが互いを必要としないときはないほどに硬く結ばれているのだという。









指先から凍るような寒さ。

師走の終わりを迎えたこの日、城中総出で大騒ぎした大宴会も宴酣となり、珍しく酔いつぶれなかった幸村が「小腹が減った」とぶーたれたために、さてそろそろ休もうかと一息ついていた彼の影佐助は、渋々火鉢でちまちまと餅を焼いていた。

ぬくもりを逃がさないよう、小さな部屋に腰を下ろし、半纏を羽織って二人火鉢を囲む。



真っ白い餅を網に乗せる。ぱちっ、と炭の爆ぜる音、ぴしぴしと餅の表面がひび割れる音。

火鉢の向こう、少し赤くなった幸村の手。

「(なんて冷たそうなんだろう)」

佐助は箸で餅をひっくり返した。間も無く、真っ白いそれはふくらみ、食べごろになった。



「ハイ旦那、餅」

「すまんな、佐助」

「すまんと思うなら餅くらい自分で焼いてよね」

「む、むう」



差し出された皿にそっと餅を乗せてやる。

こんがりした焼き目の間から柔らかい部分が張り出し、とても美味そうだ。

佐助はまた網に餅を乗せ、宴会の席から拝借していた甘味のあんこを幸村の皿にこんもりと盛ってやる。



「やはり餅にはあんこが一番だな」

口をもんにゃり動かしながら幸村が幸せそうに笑う。

「火傷しないでよ。よく噛んで、喉に詰まらせたりしないようにね」

「うむ」

「武田随一の武人が、餅を喉に詰まらせて死んだりなんかしたら、お館様恥ずかしがるよ」

「お、おやかたさま!」

よくよく、お館様と魔法の言葉を吐けば、真田幸村は思うように動く。

扱いやすい主人だこと、と佐助は思う。従者にあるまじき考えだろうが、二人の関係は主従という言葉には収まらない。

この世に溢れる数多の言葉も、二人の絆を言い表せはしないのだ。

「なーんつってな」

「む?」

「こっちの話。俺様もお餅たーべよっと」



障子の向こう、部屋の外では音もなく空から白い雪が舞い降りてくる。

空気のにおい、鼻先の冷たさで佐助はそれを知るが、幸村にはまだしばらく黙っておくことにした。

「(外は、寒いし)」

早くも一つ目を食べ終えた幸村に、焼きあがったばかりの餅をまた与える。

「(旦那は、花より団子だし)」

砂糖醤油で食べていた餅の味に飽きてきた。

「(俺様だって、おんなじ白いのなら、雪より餅の方が美味くて好きさ)」

身体をずいと乗り出して、火鉢を回り込むように幸村の口元からあんこを奪う。

「さ、さすけっ」

「あまぁい」



戦場に立つということ。

命のやり取りをするということ。

主の影となるということ。



「旦那はあまぁいねえ」

冷たい唇に舌を這わせ、しっかりと塞ぐ。

口内は酷く甘ったるく、熱い。

「さす、け」

呼吸の浅くなる幸村の唇をもう一度軽く舐めると、元の座布団にまた腰を下ろし佐助は言った。

「一年間、ごくろうさま。生きててくれて、ありがとう」

「...それを言うために、今、」

「餅もっと食べる?」

「佐助」

「きなこもあるよ」

まっすぐに見つめてくる目を同じく見つめ返す。言いたいことはそれだけで、やりたいことはあれだけさ、と。

しばらくだんまり見詰め合っていた二人だが、とうとう幸村が折れ、頬を染めたまま

「...きなこで、食べる」

と呟いたので、佐助は満足げに笑い餅を焼いた。









外では降り続く雪がやがて世界を白く染め、音を吸い取り、いつの日か主であるか、影であるか、いずれかの血をも吸うだろう。

「(おんなじ白いのなら、)」

餅を食う幸村を見る。

「(餅の方が、好きさ)」



ぱちん、と餅が跳ねた。



















AKEOME!!!!
おかしいなあもっと「ハレンチでござるー!」みたいな話の予定だったのに
おかしいなあ、不思議だなあ
ともあれあまーいゆきむるぁとそのあまーいゆきむるぁが心配で心配で
今年も一年生きててくれてサンキューなんだぜ!チュッ!(己の欲望)な佐助
かけて...よかった...の?
ともあれあけたぜおめでとう。